永住の独立生計要件とは?

永住の独立生計要件とは?

今日のおはなし

永住の独立生計要件とは?

永住許可の要件のひとつとして「独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること」というものがあります。
過去から現在、また将来にわたって、自活能力があるかという点を審査されます。

具体的には、

  • 安定した収入があり、自立した生活が見込まれること
  • 生活保護などを受けていないこと

が挙げられます。

「安定した収入」とは、明確な基準は公表されていませんが、原則として直近5年間の年収が、継続して300万円以上あることが許可・不許可を分けるひとつのラインだと言われています。また「自立した生活が見込まれること」とある通り、永住の審査においては現在の貯金額よりも収入面が重要視されていることが過去の事例から明らかです。

ただし、現在の資産の状況が全く関係ないのかというとそうではありません。例えば、母国で不動産を所有していて、日本での収入に加えて賃貸収入がある場合などには、補強材料として審査官に説明をした方が許可の可能性は高まります。この場合、日本での納税義務が発生する場合には国益要件(公的義務の適性履行)を満たしていないとならないよう納税については十分に確認しましょう。

永住審査では、形式的な年収の額面金額だけではなく、収入の推移、世帯の状況、職業などの諸事情なども総合的に判断されます。例えば次のようなケースであれば、直近5年間の年収が一部300万円を下回っていても永住ビザが許可される場合があります。

  • 入社初年度のみ年収300万円を下回っているがその後は300万円以上であるケース
  • 転職した年に年収が300万円未満となったが、その後年収が上がっているケース

ただし、入管ホームページ上の書類だけでは、上記のような事実は審査官に伝わりませんので、かならず提出書類と一緒に説明文書を加える必要があります。

年収が審査される期間は原則5年ですが、申請人の現在の在留資格によって異なります。審査対象となるすべての期間の年収が単身の場合300万円以上(もしくは扶養者数に応じた年収額)であることが求められます。

原則&特例審査対象期間
原則直近5年分
日本人の配偶者等直近3年分
永住者の配偶者等直近3年分
高度人材ポイント70点以上の場合直近3年分
高度人材ポイント80点以上の場合直近1年分
年収要件(生計要件)が審査される期間

経営・管理ビザをお持ちの方、その他、会社の経営活動が認められている資格をもって会社経営をしている申請者については、収入(所得)面も重要ですが、サラリーマンよりも安定性や継続性がより重要になってきます。経営状態も審査の対象となりますので、赤字が2期以上続いている、もしくは債務超過状態の会社は永住申請しても許可になる可能性が低いため、経営の安定化を優先しましょう。あくまでも決算書上の数字で審査されますので、過度な税金対策を行っている場合などには修正申告が必要な場合もあります。予め確認しておきましょう。

過去から現在の決算書や安定性を示す継続的取引の記録や契約書、説明書なども加えて、会社の安定性を書類で証明できるようにしましょう。

生活保護を受けている方は「日常生活において公共の負担になっている」と判断されますので、永住申請するのであれば生活保護の受給はまず最初にストップする必要があります。また、申請人についてだけでなく、申請人の曾祖母や兄弟姉妹の子供など「3親等以内の親族」が生活保護を受けているケースでは、申請人に生活保護を受けている親族の面倒を見る義務が法律上発生し、申請人が年収300万円以上あっても素行善良要件・国益要件をクリアしてしないと判断され、不許可となる可能性があります。

世帯年収でもOK?生計要件を満たすと判断されるパターン

過去5年分の年収が審査される年収要件ですが、配偶者がいる場合には、本人の年収に加えて、世帯年収として合算して要件を満たすことも可能です。

なお、必ずしも申請人自身が具備している必要はなく、申請人が配偶者等とともに構成する世帯単位で安定した生活を続けることができる場合にも認められます。したがって、夫の年収280万円(5年平均)+妻の年収280万(5年平均)などの共働きの場合、合計で560万円となり、収入要件は原則は充足されることになります。なお、300万円の足切りになることもあるようなので、申請人または配偶者が300万円以上となっていることが無難です。

ここでは、日本人の夫を持つ永住申請人(妻)が同世帯で暮らしている場合の年収要件について、よく問題となるケースを3つ一緒に見てみましょう。

CASE
永住申請人が夫の扶養を受けないで働いている場合

夫の年収と妻の年収を合算した額(世帯年収)で独立生計要件をクリアしていれば問題ありません。

例:夫の年収260万円+妻の年収140万円=世帯年収400万円のため、夫婦二人のみの世帯であれば生計要件はOK
ただし、安全圏として申請人または配偶者のうちどちらか片方は年収300万円を超えていた方が無難です。

CASE
永住申請人が専業主婦の場合

夫の年収のみで審査されます。夫の年収が扶養1人の場合の生計要件をクリアしている必要があります。

例:夫の年収400万円=夫婦二人のみの世帯であれば生計要件はクリア

CASE
永住申請人が夫の扶養の範囲内で働いている場合

扶養者に扶養されて在留することが前提となっている在留資格の場合、その年収を審査上の世帯年収として含めることができません。そのため、この場合も夫の年収のみで審査されます。

例:夫の年収280万円+妻の年収100万円=合算すると380万円となりますが、世帯年収にパート収入を含むことはできません。夫のみの場合、年収280万円となり、年収要件を満たすことができていないため、不許可となります。

扶養していると生計要件で不利になるのか?

生計要件を満たすためには、年収300万円がひとつの目安という話をしましたが、これは扶養している家族がいない場合の最低ラインの目安であり、扶養家族がいる場合は1人あたり約80万円~100万円ほど、この「年収300万円」のラインに上乗せして考える必要があります。

扶養していると生計要件で不利になるのか?という問いがありますが、結論から言うと、扶養人数が多すぎると永住申請は「独立生計要件」と「国益要件面」の2つの側面から不利になります。

「独立生計要件」として審査される年収額ですが、扶養人数が多すぎる場合には、それだけ、収入として得た金額が扶養家族に分配されていることになるので、扶養人数が少ない場合よりも1人あたりに使えるお金が減るということになります。扶養人数ごとの年収には目安がありますが、扶養人数が不必要に多すぎることは独立生計要件で疑義が生まれる原因となり得ます。

また、先ほどお話したとおり、扶養を受けていない配偶者の年収は、世帯年収として合算し、夫婦二人で安定した生活を将来にわたって継続できると認められれば独立生計要件をクリアできる可能性がありますが、通常、扶養を受けて在留している方のパート収入は世帯収入に含めることができません。そのため、夫婦二人世帯で永住申請をする方が配偶者の扶養範囲内でアルバイトやパートをしている場合には、配偶者の年収のみで380万円程度の年収要件を満たす必要があります。

以前は60~80万円程プラスすれば良いと言われていましたが、扶養家族1人で360万円くらいだと不許可になる事例が聞かれるようになりました。この上乗せ金額の変化からも、要件が年々厳しくなっているのがお分かりいただけると思います。

ここでは、扶養人数が1人追加されるごとに必要な追加年収を+80万円と考えて、
以下の表で永住許可に足りる年収をシミュレーションしてみたいと思います。

扶養人数0人の場合

収入面の要件(目安):年収300万円

扶養家族1人の場合

収入面の要件(目安):年収380万円(300万円+80万円×1人)

扶養家族2人の場合

収入面の要件(目安):年収460万円(300万円+80万円×2人)

扶養家族3人の場合

収入面の要件(目安):年収540万円(300万円+80万円×3人)

扶養家族4人の場合

収入面の要件(目安):年収620万円(300万円+80万円×4人)

扶養家族5人の場合

収入面の要件(目安):年収700万円(300万円+80万円×5人)

扶養家族6人の場合

収入面の要件(目安):年収780万円(300万円+80万円×6人)

扶養家族7人の場合

収入面の要件(目安):年収860万円(300万円+80万円×7人)

扶養家族8人の場合

収入面の要件(目安):年収940万円(300万円+80万円×8人)

扶養家族9人の場合

収入面の要件(目安):年収1020万円(300万円+80万円×9人)

扶養家族10人の場合

収入面の要件(目安):年収1100万円(300万円+80万円×10人)

※配偶者が扶養者の場合などは、扶養する側の年収で判断しましょう。

また、多すぎる扶養は「国益要件」としても不利に働きます。母国在住の親・兄弟まで扶養に入れている場合には、「適切でない人まで扶養に入れて税金対策しているのではないか」と入管審査官に疑われる可能性が高くなります。適切でない過度な税金対策は、地方自治体の財政を圧迫することになりますので、国益要件(公的義務を適正に履行)を満たしていないと判断され、永住審査が不利になる可能性があります。

このように、適正な扶養、扶養人数というのは、永住の2つの要件にまたがって影響を及ぼすため、とても重要です。
永住申請前に扶養について考えなければいけないことは、「本当に必要な扶養なのか?」ということです。また、「どのように扶養しているのか?」ということも客観的に証明できるものである必要があります。

本来扶養に入れるべきではない人を扶養に入れている場合は、まず対象の人を扶養から外し、遡って修正申告をし、正しい税金を納め直す必要があります。本当に必要な扶養であれば、定期的な送金を行い、客観的な証明方法のひとつとして、送金記録を残しておきましょう。扶養人数は永住申請の際にとても重要なポイントとなるため、永住申請前に見直しを行くことをおすすめします。

2016年の制度改正によって、親族関係書類と送金記録等がない場合には扶養控除ができないという仕組みに代わりましたが、以前は証明資料がなくても名前を書くだけで簡単に扶養に入れることができたため、それ以前の扶養関係においては在外親族との関係や扶養状況を証明する書類の提出などを求められることが多くなっています。

送金の目安としては、在外(または別居)の扶養家族1人につき、年間38万円以上の送金を行っている必要があります。証明の方法としては、送金記録を親族関係を示す書類と併せて提出しましょう。

転職していても生計要件に不利にならないケース

転職しても給料が上がらない場合、永住申請にネガティブな影響を与えることが多いです。

職を何度も変えていたり、現在の職の勤続期間が短いと、安定性に欠けると判断されやすくなります。独立生計要件(独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること)の「安定した生活が見込まれること」という要件を満たせなくなり、審査が厳しくなります。最低でも転職後1年間は勤続してから永住申請をすることをお勧めします。また、転職先の業務でも在留資格の該当性を満たしていることを示すため、転職後には就労資格証明書交付申請を行いましょう。

また、転職をするために休職や無職だった期間があると、その分年収に影響します。年収・所得については原則直近5年間が見られますので、転職した年は年収の要件を満たせなくなり、結果永住申請が遅れてしまうことも少なくありません。また、東京都など平均賃金が高い地域から平均賃金が比較的低めの地方勤務者となった場合でも、独立生計要件の年収最低ラインは変わりませんので注意しましょう。

転職して、給料や地位が上がることをキャリアアップ転職といいます。転職は永住申請に不利になることが多いのでお勧めできませんが、100万円以上のキャリアアップ転職であればネガティブな影響を与えないと言われています。

また、転職後は転職先で1年以上勤続してから永住申請すべきと話しましたが、これも、100万円以上のキャリアアップ転職であれば、1年未満でも永住許可となる可能性があります。ただし、転職してから更新申請を行う前に永住申請する場合には、必ず転職後に就労資格証明書交付申請を行い、就労資格証明を受けてから永住申請をしましょう。

100万円未満、例えば、50万円~70万円ほどの給料がアップする場合はキャリアアップ転職とみなされないのでしょうか?

申請人の状況により異なりますので、一概には言えません。ただ、転職自体が審査官に安定性などの面で慎重な判断が必要と考えさせてしまいますので、原則直近5年の確認対象期間内に転職をしている場合には、安定性がある旨の説明を加えておいた方が良いでしょう。永住審査は総合的判断と言われますので、その他の個別具体的な事情から個別に検討・判断するのが確実だと思いますが、基本的には100万円未満の転職であれば永住申請を優先し、永住許可が出てから転職をおすすめしています。

まとめ

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