産休・育休による収入ダウンは永住申請に影響する?

産休・育休による収入ダウンは永住申請に影響する?

今日のおはなし

産休・育休は永住申請に影響するの?

一般的な就労資格である技術・人文知識・国際業務(技人国)や、資格をもって働く介護職や医療従事者などの就労ビザを取得して、日本で働いている女性も増えてきました。その中には、一定期間就労した後で永住権を取って、日本に住み続けるライフプランを描いている方もいると思います。

近年ではワークライフバランスも重要視されており、様々な雇用改善が検討されています。女性だけでなく、男性も育児休暇を取れるような社会に転換していくべきという風潮も強まっていますが、いまだ時代が追い付いていないといったところで、まだまだ整備には時間がかかりそうです。

永住申請には安定した一定以上の収入が求められる「独立生計要件」や、税金などの支払や原則10年日本に住み、その内5年就労するという居住要件を含めた「国益適合要件」などのいくつかの要件を満たす必要があります。永住審査において、産休・育休による休職期間や収入ダウンはどのように扱われるのでしょうか。

産休・育休でも生計要件を満たせる?

結論からいえば、産休・育休は永住申請に影響する可能性があります。

産休や育休後に様々な理由から職場復帰ができなくなる可能性もありますし、復帰後数年たたずに辞めてしまうケースや、時短勤務になったり収入が下がってしまうケースも現実にはあると思います。そのため、永住審査の観点からすると、生計要件を満たしていると認めて永住権を与えるには、「安定性」や「収入面」からどうしても慎重にならざるを得ないのです。

しかし、時代の風向きから考えて「産休だから」「育休だから」という理由だけで不許可になることは少ないと考えてよいでしょう。

大切なのは、このような生計の要件などをどのようにカバーして満たしていくのか?といった点です。永住審査は申請人についてのいろいろな事情を総合的に判断して許可不許可の判断がでるので、「安定性」や「収入面」について欠けていると判断されそうな部分があれば、合理的な理由を審査官に書面で伝えていくことが重要です。

収入面のカバー方法

産前産後休業は出産予定日6週間前~出産後8週間後、育児休暇は産休後から子どもの1歳の誕生日まで取得することができますが、産休・育休を取得中は勤務先から給料は支払われないため、以下のような給付金を受け取ることになります。

健康保険から受け取れる一時金
  • 出産一時金:一児につき42万円
  • 出産手当金:支給開始日以前の12カ月間の標準報酬月額の平均額÷30日×2/3

※出産手当金は、出産予定日前42日+出産予定日から遅れた出産日までの日数+産後56日までの範囲内で、会社を休み、給与の支払いがなかった期間分受け取れます。

雇用保険から受け取れる給付金
  • 育児休業給付金:給料の67%(最初の180日)、181日目~子どもが1歳まで50%

原則、就労ビザから永住申請を行う場合には、直近5年分の収入が確認されます。

単身・扶養無しの場合、直近5年とも300万円以上の収入が安定してあることが生計要件をクリアするひとつの目安となります。産休に入る前の給料よりは少なくなりますが、永住申請時にはこれらの収入についても年収に加えることができるため、給付金を使って生計要件を満たせるようであれば問題ありません。産休や育休を受け取る際の証明書など書面関係は永住申請時に提出することになりますので、捨てないように注意しましょう。

安定面のカバー方法

就労ビザから永住申請を行う場合には、直近5年の間、一定以上の収入が「安定して」あることが条件ですので、安定面についてのアピールも必要です。

上記の出産・育児のための一時金や給付金については一時的なものになりますので、産休に入る前までの給料が安定していること、また、職場復帰後の給料が1~2年ほど元に戻っていることを賃金台帳や源泉徴収票などで確認できれば、十分に安定性を認めてもらえる可能性があると思います。

育児休暇中に永住申請をしたいという方もいらっしゃると思いますが「安定性」の面で説得力を持たせるには、しっかりと職場復帰をされてから永住申請をすることをおすすめします。もしも、現状扶養関係がなく共働きだけれども、安定して十分な収入を得ている日本人や永住者の配偶者がいるというのであれば、扶養関係や諸条件などを整えた上で、配偶者として永住申請することも検討できます。

産休・育休でも国益要件を満たせる?

就労系在留資格からの永住申請では「原則として、引き続き10年以上日本に在留していること」が求められ、居住要件と呼ばれています。「引き続き」とあるように「日本に継続して在留している」と認められる必要があり、たとえば、出産や育児で母国にいる両親の手を借りるために一時帰国するいわゆる里帰り出産などの場合も、1回3か月以上の長期に渡って日本を離れると居住歴がリセットされてしまう可能性があります。

就労ビザから永住申請を検討する場合、収入面の要件を満たしているかどうかの確認も必須ですが、出産や育児で居住要件をはじめとする国益適合要件も未達となる可能性があるので、注意が必要です。

その他にも、年間累計で100日以上日本から離れると、「引き続き」日本に在留しているとは認められず、居住年数がリセットされてしまう可能性があるので、以下に当てはまっている場合には注意が必要です。

  • 再入国許可の期限を過ぎて海外に滞在してしまったことがある
  • 更新申請で不許可となり、出国準備(30日)となってしまった
  • いままでに1回の出国で90日以上日本を離れた
  • 年間出国日数が合計で100日以上となった

ただし、永住申請は帰化申請より厳格ではなく、リセットでもまた再び居住要件を1から満たさないといけないというわけではありません。例えば、100日以上の出国が10年間居住のうち1年のみであれば、11年目の出国を少なく日本で過ごすことで、次の年に永住許可が認められる可能性は大いにあります。

また、1年での出国が100日~120日程度であれば、出国の合理的な理由を説明することでカバーすることは可能です。その他、日本における所有不動産の有無や子供が日本の学校に通っているなど日本との強い結びつきがあれば、永住申請の際には書き加えておくべきです。日本に生活の基盤があること、日本にただ住みたいという願いも大事ですが、「これからも日本に住む必要がある」という明確な理由があり、その信憑性が認められれば、出国が多少長くなってしまった場合でも、許可される可能性はあります。

近年は、コロナウイルス感染症などの事情で日本に帰って来られなかった場合など、一概にその期間がリセットされるとは言えませんので、申請の際には、審査官への説明を理由書等で明確に伝えるようにしましょう。


産休・育休自体は働く者の権利として当然利用すべきものですが、ここまで見てきたように、出産や育児による休業によって、審査対象期間の年収が下がってしまうなど間接的に許可・不許可に影響を及ぼす場合があります。また、妊娠出産のために会社を退職し、一時的に休職期間ができた場合にも、要件を満たせずに不許可となってしまうケースがあります。

在留資格「技術・人文知識・国際業務」から永住申請を申請者自身で行い、不許可となった事例をご紹介します。

申請人の略歴
  • 2005年:初来日、以降13年間日本に在留
  • 2013年:日本の大学を卒業
  • 2013年:ベンチャー企業に通訳翻訳の正社員として就労(技術・人文知識・国際業務)
  • 2016年:要件を満たしたと判断し、永住許可申請
  • 2017年:妊娠・出産のため退社
  • 2017年:出産のため一時帰国
  • 2017年:源泉徴収税額1,000万円以上の企業に中国人従業員の指導管理者として入社
  • 2017年:永住不許可

申請者が、入管担当者に指摘された不許可理由は以下の通りでした。

  • 休職期間の収入がなく、年収要件を満たしていない
  • 計画性がなく、将来的な安定性に欠ける

年収が低いと判断された原因には、生計要件の理解がきちんとされていなかったことが挙げられます。申請人には配偶者がおり、配偶者もアルバイトとしての収入があったため不自由なく生活できていましたが、家族滞在の配偶者の収入は生計要件の年収としては加算されない点を入管担当者より指摘されています。

このケースでは、事情があるとはいえ永住許可申請中の休職や転職である点がネガティブに働きました。永住申請中に状況が変わるのは安定性に欠けると判断されやすくなるため、好ましくありません。逆に、出産・育児のための休業があっても、その後、職場復帰し安定的に条件を満たしていることを証明+理由書の説明等でカバーできれば、その期間の事情は考慮されて総合的判断の結果、許可になる可能性も十分にあります。現状、心配や不安がある方はぜひ一度、ご相談ください。

まとめ

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